魂喰01

 「子供ばかりを狙った殺人鬼……ですか?」
 ヨーデルの前に膝を降り、頭を垂れていたフレンは、読み上げられた報告書の内容に眉を顰めた。
「これで八人目だという報告があがっています。なかなか狡猾で容易に姿を現さないとか。騎士団長である貴方にも直々に事件にあたってもらわなければならないかもしれません」
「もちろんです」
 フレンは、再び深く頭を下げる。
「フレン」
 ヨーデルの傍らに立つエステルに名前を呼ばれ、フレンは視線をそちらへと向けた。
「フレンはまだ自分の武器を選ばないんです?」
「騎士団長ともあろうものが、武器を持たない職人では、世間的にも困りますけどね」
 苦笑しながら、ヨーデルが続ける。
「申し訳ありません」
 恐縮し、ますます頭を下げるフレンをほほえましく見つめながら、ヨーデルはエステルへと視線を移した。
「エステリーゼ、彼には心に決めた人がいるんですよ」
「ユーリ……ですね?」
 エステルは柔らかく微笑みを浮かべる。
「なかなか彼がパートナーとしてOKを出してくれないそうなんです。でも他の武器では気に入らないらしくて」
「気に入らないなんてそんな……」
 フレンは赤面しながら視線を泳がせた。
「フレンほどの腕なら、人が化した武器など必要としないかもしれませんが、私としても、早くよき伴侶を見つけて欲しいと思いますね。このテルカ・リュミレースの安寧のためにも」
「御意」
 フレンは再び礼を執ると、謁見の間から辞した。
 一歩部屋から出ると、肩の緊張を解き、深々とため息をつく。
 早く武器を決めて欲しい。
 それは再三言われていることだ。
 武器とは己の身体を文字通り武器に変える特性を持った人間のことだ。
 職人は武力に優れ、武器の力を借りて、人の魂を捨て、鬼人と化した人間の魂を狩る。
 武器は鬼人の魂を食らえば食らうほど強くなっていく。
 もちろん、職人なら武器は誰でもいいということはない。
 二人の魂の波長が合わないと、いくら武器や職人個人が強くても一緒に戦うことは出来ない。
「フレン様!」
 まるで待ちかまえていたかのように、一人の若い女騎士が姿を現す。
 猫のようにつり上がったアーモンド型の瞳と、泣きぼくろが印象的な美女だ。
「ソディア」
「また……ヨーデル様たちに呼び出されたのですね」
「ちまたで噂になっている、子供ばかりを狙う殺人鬼の捜索及び討伐の命令が出されたよ」
「騎士団長自ら?」
「それだけ手強い相手なんだろうな」
 フレンは静かに告げる。
「それと、いつものことだが、早く武器を持てとも命を受けたよ」
「それは……」
 何か言いたげに、ソディアの形のいい唇がきつく結ばれる。
「こればっかりは僕一人ががんばっても仕方がないことだからね」
 肩を落とし、らしくなく苦笑しながら、フレンは踵を返した。
「フレン様!」
 突然鋭い声で名を呼ばれ、フレンは訝しげに振り返る。
 見ると、思い詰めた表情で、ソディアが縋るようにフレンを見つめていた。
「どうして私ではダメなのです? 私ならば、命に替えてもフレン様をお守りいたします! あんな男より、私の方が……」
「ダメということではないよ」
 フレンは優しく微笑みながら、ソディアの肩に手を置いた。
「ならば!」
「単に、これは僕の我が儘なんだ。小さい頃からずっと決めていたことだから」
「あんなフレン様を拒否している男なのにですか?」
「うん。困ったことにね」
 微かに小首をかしげ、少し自嘲気味にフレンは笑みを浮かべた。
 そして、それ以上何も言えなくなったソディアの肩をもう一度優しく叩くと、ゆっくりと歩を進め、城の出口へと向かった。
 報告書によると、殺人鬼が出る場所も時間も神出鬼没。
 比較的騎士団の警備が厳しい貴族街すら何人かの子供が手にかかっているらしい。
「だったら下町なんかもっと危ないな」
 今のところ、下町では被害にあった子供はいない。
 だが、これからも襲われない子供がいないとは限らない。
 フレンは貴族街を抜け、黄昏時を迎えた下町へと歩を進める。
 普段なら、まだ小さい子供を見かけてもおかしくない時間なのに、子供どころか大人の姿もまばらにしか見えない。
当たり前だ。
確かに被害は子供ばかりだが、殺人鬼は大人を襲わないという保証はどこにもないのだから。
 下町の通路をさらに下っていくと、見慣れた光景が広がる。
 小さい頃育ってきた町だ。
 最近は忙しくて、なかなか訪れることは敵わないが、あの頃となんら風景は変わらない。
 懐かしく感慨にふけっていくと、突然、子供の悲鳴が聞こえた。
「助けて! たすけてええ」
 声が聞こえた路地へと走り込んでいくと、そこには腰を抜かして動けない子供と、今にも襲いかかろうとしている鬼人がいた。
 もう既にほとんど人の形はしていない。
 全身の筋肉が異様に盛り上がり、ほお骨は鋭く突き出て顎は驚くほど痩せている。
 背中にはこぶのようなものも見える。
 身体の中に狂気をため込んだ証だ。
 全身から殺気を漲らせ、どす黒く、生臭いオーラを放っている。
「フレン!」
 不意に名を呼ばれ、フレンは鬼人から子供へと視線を移した。
「テッド! どうしてここに」
「母さんが風邪をひいて、ぼく……薬を買いに行って」
「そうか……。早くここから逃げて家に戻れ。鍵をかけて朝が来るまで一歩も外に出るんじゃないぞ」
「でもっ」
「僕なら大丈夫。早く!」
 腰元の剣を抜き、フレンは鬼人をにらみつけた。
 目はつり上がり、口元は裂け、そこから獣を思わせる鋭い牙が見え隠れしている。
 既に何人も人を食らった口だ。
 元は普通の人間だっただろうに、何が人をここまで変えるのだろうか。
 おぞましさと同時に憐憫の情が浮かぶ。
 剣をきつく握りしめたと同時に鬼人は奇声をあげると飛びかかってきた。
 それを正面から迎え撃ち、フレンは剣で押さえる。
 ぎりっと柄を握る腕が鳴る。
 騎士団長に与えられた剣は、ヨーデルの選んだ最高峰の職人が作った聖剣ではあるが、所詮、鉄の塊だ。
 人の意志ははいってはいない。
 人が化した武器には比べようもない。
 だが、ここで負けるわけにはいかなかった。
 極限まで籠めていた力を抜き、その反動で鬼人を背後へ投げ飛ばすと、体勢を素早く立て直し、剣を構える。
 壁にたたきつけられた鬼人は、バウンドし、転がりながらもその衝撃を利用し、素早く身体を起き上がらせている。
「ボールみたいなヤツだな」
 独りごちる間もなく、再び鬼人が飛びかかってくる。
 それを身を屈め、頭上を飛び越えさせることでやり過ごし、フレンはその背後に剣を貫こうとした。
 だが、それは敵わなかった。
 何かがフレンの右手を捕らえ、身体ごと持ち上げ、壁に押しつけたからだ。
「何……?」
 人型の鬼人のはずが、身体から幾本もの触手が生え、ゆらゆらと揺れているのが見える。
「いつの間に!……あっ」
 左手も捕らわれる。
 両手を壁に縫いつけられ、フレンは目の前の鬼人をねめつけた。
 よだれを垂らし、牙を見せながら、ゆっくりと鬼人が歩み寄ってくるのが見えた。
 フレンは目を閉じ小さく詠唱を始める。
 足下に陣が現れ、光があふれ出す。
 それは光の槍となって、鬼人を貫くはずだった。
 だが鬼人はそれに気づき、咆哮すると高く跳躍した。
 詠唱が終わる前にのど元を食い破られればそれで終わりだ。
 鬼人の生臭い息がフレンの顔に迫ってくる。
 だが、牙がその肌を食い破ることは出来なかった。
 フレンのモノではない血痕が、下町の路地を濡らす。
「ぎゃああああ」
 獣の断末魔にも似た咆哮が闇にとどろく。
 何かが鬼人の背中を襷切りにしたのだ。
 衝撃で外れた触手から逃れたフレンが地に軽やかに着地する。
 顔を上げると、フレンの目の前には、長い黒髪の男が立っていた。
 その腕のみが鋭い刃物と化している。
 ユーリ・ローウェル。
 フレンの幼なじみであり、武器の性質を持つ男だ。
「ったくらしくねえヘマしてんなあ」
 ユーリの軽口に驚く様子も見せず、フレンは落ち着いた態度で立ち上がった。
「来てくれるって信じてたからね」
「あいかわらずいい性格だな、お前」
 肩をすくめながら、ユーリは苦笑した。
「ユーリ、来るよ!」
 フレンの声に、ユーリは一瞬にして黒く光る、スケイスへと変身する。
 それを捕らえ、軽やかに振り回すと、フレンは半ば狂ったように叫び、突進してくる鬼人を見据えた。
 ほんの少しも狂いもなく、急所を狙い、フレンは鬼人の身体を切り裂いた。
 悲鳴もあげられず、一瞬硬直した鬼人の身体は、次の瞬間にはチリとなって消え失せた。
 残された赤く染まった魂は、スケイスの中へと吸い込まれていく。
「ハイ、お見事でした」
 茶化すように言いながら、ユーリが元の姿に戻る。
「ユーリが助けてくれたからだよ」
「ヘイヘイ、そうですか」
 真摯なフレンの言葉は取り合わずに、ふざけた調子で応えると、ユーリは背を向けた。
 手をひらひらと振って見せて、そのまま歩を進めようとする。
「そんじゃ、お前も気をつけて帰……」
「ユーリ!」
 フレンの声に、ユーリの足が止まる。
 振り返った表情は、先ほどの茶化す表情はない。
「どうして僕のパートナーになってくれない? 今のでわかっただろう、僕には君が……」
「またその話かよ」
 呆れたように肩をすくめながら、ユーリはため息をついた。
「だから、言っただろう。俺は騎士団長さんの武器になるほど立派なヤツじゃねーってーの。お前ならいくらでも……」
「小さい頃は僕の武器になってくれるって言ったじゃないか」
「ガキの頃の口約束なんか本気にしてんじゃねーよ」
 嫌な沈黙が二人の間を流れていく。
「……そんなに」
 俯いたフレンの声が濡れていることに気づき、ユーリは驚いて目の前の親友の顔を覗き込んだ。
「そんなに僕が嫌いなのか?」
「ばか、いつそんなこと言ったよ。つーか往来で泣くなよ、ガキじゃあるまいし」
「嫌いじゃなきゃなぜ? 君が僕を拒み続ける原因はなんだっていうんだ?」
 子供のように涙を溢れさせながら、フレンが言い募ってくる。
「あー、もう」
 深々とため息をつきながら、ユーリはフレンの手をとった。
「俺の部屋で話そうぜ。ここじゃ埓があかない」
 返事をしないフレンを、半ば強引に手を引き、ユーリは宿の二階にある自室へと向かった。
 ドアを開けると、有無を言わさずフレンをベッドへと放り投げる。
 何をするんだという抗議は、手足を押さえつけることで無視した。
 乱暴に唇を合わせながら、器用に鎧を剥いでいく。
「やっ……ユーリ!」
 押さえつけられている腕をなんとかふりほどこうと、ユーリの下でフレンが抵抗を繰り返す。
 だが、その手をあっさりと放され、フレンは訝しげに顔をあげた。
「だろ? いやだろ? これがお前のパートナーになれない理由」
「……何?」
「はっきり言わないとわからないわけ?」
 呆れたように肩をすくめると、ユーリは再びフレンの唇を深く奪った。
「ん……」
 唇を放すと、息苦しさに涙を浮かべながら、フレンが呆然と見上げてくる。
「これで、わかっただろ? パートナーになるってことはさ、四六時中一緒にいなくちゃならない。それどころか寝食も共にしなくちゃならねえ。そうなったら、俺だって押さえがきかねえ」
「押さえ?」
「ったく! どこまでニブチンなんだ、お前は」
 大げさに額を抑え、ユーリは天井を仰いだ。
 そしてため息をひとつつき、意を決すると、どこまでも鈍感な幼なじみに理解させるために、半ばヤケのように怒鳴る。
「俺は! お前が好きなんだよ。女みたいに抱きてーって思うほどにな!」
「お……」
 顔を真っ赤にしてフレンが見上げてくる。
 さすがにこれだけはっきり言えば意味が通じたらしい。
「ったく人の苦労を泡にしやがって。これでわかったろ。俺はお前の……」
 パートナーにはなれない、という言葉は、不意に触れた唇の感触で霧散した。
「……?」
 フレンの腕がユーリを引き寄せ、まるで子供のように稚拙なくちづけをしてきたのだ。
「おまっ……何のつもりだよ」
 突然の行為にさすがに狼狽し、ユーリが問う。
「ユーリ……。魂の共鳴は、こうやって身体を触れあわせていると高まるって聞いたよ」
「フレン?」
「だから職人と武器は、恋人同士や夫婦が多いんだって」
「……だろうな」
「僕は……ユーリになら……」
「フレン……?」
 頬を赤くそめ、涙で蒼い瞳を濡らしながら、フレンが見上げてくる。
「ユーリになら……」
「お前……」
 ユーリの背に回されていた腕に再び力がこもる。
 フレンの両足がユーリの身体を挟むように開かれ、消え入るような儚いささやきが耳元をかすめた。
「君の……ものに」
 その言葉が呪いを解く呪文だったのかもしれない。
 箍が外れ、押さえていた愛情があふれ出す。
「後悔すんなよ」
 ユーリはフレンを固く抱きしめ、身体の奥まで征服するためにその身体を大きく開かせた。




潔く身体を開き、誘ったまではよかったが、いざ服を脱がされ、肌に手を這わされると、フレンは震えながらユーリの手首を握った。
 怯えた蒼い瞳がユーリを捕らえる。
「どうした? やめとくか?」
「……やめなくていい」
「んじゃこの手はなんだよ?」
 触れられたい、と思いながらも未知なる感覚に恐怖すら感じる。
 少し胸の突起を指先が擦っただけで、フレンの身体にしびれが走り、感じたこともない変な感覚が身体の奥から沸き上がってくる。
「無理しなくてもいいんだぜ?」
 耳朶をかすめるように囁かれ、フレンは思わず首をすくめた。
「無理……じゃない。ただちょっと……」
「ちょっと?」
「こ……わい……というか……」
 らしくなく小さく口ごもるフレンに、ユーリは意地悪く、だが愛おしそうに笑みを浮かべた。
「こんな風に誰かに触られるのは初めて?」
「当たり前だろう!」
「当たり前か? お前身持ち固すぎなんだよ」
 だが。
 ユーリはフレンの耳朶を優しく噛む。
「あっ……」
 思わず漏れた悲鳴にほくそ笑む。
「誰にも触れられなくてよかった」
「な……に?」
「俺だけにしか感じない身体にしてやるからさ」
 掠れた甘い声で囁かれ、フレンは思わずのしかかってくるユーリの身体を押し戻そうとした。
「こら。今更嫌がらない」
「いや……じゃない。いやじゃないんだけど、手が勝手に」
「それなら、お前がマジで嫌がっても本当は誘ってるって思うようにするぞ?」
 いたずらっぽく口の端をあげながら、ユーリが微笑む。
「いいよ、それで」
「まじかよ」
「だって……」
 身体と心の感覚がばらばらなのだ。
 ひとつになりたいと思いながらも、待ち受けている未知の行為に怯えている。
「いい。嫌がっても……続けてくれ」
「ほんとお前は可愛いな」
 ユーリは優しくフレンの唇に触れた。
 今度ははっきりと、目的をもってフレンの胸を探る。
 小さな突起を指で摘まれて、むずがゆい痛みと擦られるごとに溢れてくる感覚にフレンは喘いだ。
「あ……そこ……や」
「けっこう気持ちいいだろ?」
 続いて舌先がそこを探る。
「やっ……」
 きつく吸われる痛みに、フレンは仰け反った。
 すると今度は優しく舌先で舐めてくる。
 音を立ててそこを嬲られて、フレンは羞恥で泣きそうになってくる。
「ユ……リ……」
「なんだあ? こんな事で音を上げないでくれよ。もっと……」
 ユーリの指先が下腹部へと伸びる。
 また熱くなっていないそこへと触れ、容赦なく擦りあげる。
「あああっ……」
「恥ずかしいことすんだからさ」
 掠れた官能的な声が耳元で囁かれる。
 突起を嬲る指はそのままに、唇はフレンの中心部へと降りていく。
「けっこうかわいいのな」
 笑いを含んだ声で言われ、フレンは恥ずかしさと屈辱で唇を噛む。
「いいんじゃね? 可愛くても。俺は好きだけど?」
 そう言うと、ユーリは舌先でぺろりと先端を舐める。
「あっ……」
 熱い舌先を敏感なところに感じて、フレンは思わず声をあげる。
 だが、次の瞬間には息をつめることになってしまう。
 濡れた口腔に含まれ、舌先で舐めあげられる。
 抵抗することも出来ない強烈な刺激に、フレンは固く瞳を閉じた。
「ん……やっ……」
 柔らかな部分も掌で含まれ、優しく揉まれる。
「やあ……ユ……リ……ユーリ……」
「イヤじゃねえだろって」
 上から下へ、そして下から上へと下が滑っていく。
 唾液で滑らかになったそれを上下に擦られて、フレンは悲鳴をあげた。
「あっ……ああっ……」
「濡れて来たな」
 先端から溢れ出て来る透明な雫を、ユーリはためらいもせずに舐めた。
「いやっ………も……い……」
「まだこれからだっつーの」
 太ももを持ちあげられ、身体を深く二つに折られる。
 膝が肩につくくらいに押さえ込まれて、フレンは思わず目を見開いた。
 ユーリの目の前には双丘の奥までしっかりとさらけ出されている。
「いやっ……何を……」
「何をって、これから俺を……」
 ユーリの舌先が固く閉ざされた蕾に触れられる。
「あああっ……」
「ここで受け入れるんだろ? その準備」
「やっ……そこは……あああっ……」
 割れ目にそって舌が這い、秘孔へと移動する。
 窪んだ部分に何度も舌を這わせ、潤いを与える。
 舌先が触れる度に、フレンの身体が初々しく震える。
 唇からはもうすすり泣きに似た喘ぎしか聞こえない。
 十分に濡らすと、ユーリは抱えていた足をゆっくりとシーツへとおろし、身体をフレンの隣へと移動させた。
 怯えて固くなっている身体を、優しく抱き寄せる。
「ユ……リ?」
 ぼんやりと瞳を開くと、ユーリの唇が優しく降りてきた。
 何度も角度を変えて交わされるくちづけに、フレンの身体から徐々に緊張が解けていく。
 足の間にユーリの指が入り込んだのにも気づいてはいなかった。
 だが、十分湿らせた奥まった場所にユーリの指先が触れると、またフレンは肩に力を入れ、怯えたように見上げた。
「だから、そんな怖がるなってーの」
「ユ……リ」
「っつー方が無理か?」
 いたずらっぽく笑みを浮かべると、ユーリはフレンの頬にくちづけた。
 指先がゆっくりとフレンの中へと入り込んでいく。
「や……痛……」
「力入れるな。大丈夫だから」
「や……痛……やああ……」
「ほら、もうちっと」
 ゆっくりと挿入された指先がおもむろに動き始める。
 粘膜を擦るように出し入れされ、下腹部の奥から沸き上がってくる感覚に、フレンは怯えてユーリにしがみついた。
「いいぜ、そうやってくっついてろ」
「あっ……ああっ……いやっ……」
「きつくて熱いぜ、お前の中」
「やっ……」
 指先でひっかくように内膜を擦られて思わず腰があがる。
「気持ちいいか?」
「や……わかんな……」
「その割にはお前のここ、熱くなってんぜ?」
 言われてフレンは視線を自分の中心部へ移すと、指先で触れずとも屹立している己が見えた。
「や……」
 恥ずかしがってしがみついてくるフレンに、ユーリが苦笑する。
「恥ずかしがることねーだろ、男なら当然だ」
「あ……あああっ……」
 既に内部に侵入しているのとは違う別の指が、再び無理矢理窄まりをこじ開けて入ってくる。
「く……るし……」
「でもそんなに痛くはないだろ?」
 耳元で囁かれて、フレンは素直に頷いた。
 最初に入れられたときよりは痛くない。
 それだけそこが慣れてきたと言うことだろうか。
 指二本をゆっくりと動かされて、フレンは再び喉をのけぞらせた。
「あ……やっ……」
 敏感な部分を無遠慮に擦られて、フレンは悲鳴をあげた。
「ここがいいのか?」
「やっ……だめっ……そこ……」
「ここがいいとこなんだな」
 こりっとした固い部分を指先で優しく擦ると、フレンは身体を捩って快感から逃れようとする。
 それを無理矢理押さえ込んでユーリは執拗にそこに愛撫を与えた。
「や……も……あああっ……」
 白い背中を仰け反らせてると、白濁したものがフレンの下腹部を濡らす。
 ぐったりと力が抜けた身体を抱きしめて、ユーリは優しくフレンの頬にくちづけた。
「イケたじゃねえか。やっぱ気持ちよかったんだろ?」
「わ……かんな……」
 荒い息の中から、フレンが掠れた声で応える。
「ほんと、可愛いなお前は」
 もう一度フレンの唇に触れると、ユーリは愛しい身体を抱えなおした。
 大きく身体を開かせ、深く征服するためにのしかかる。
 フレンの下腹部を濡らしていた愛液を指先で拭い、それを窄まりへと塗りつけた。
「ん……」
「フレン……。もういやだって泣いてもだめだからな」
「ユ……リ……」
「俺がお前のものになってやる。お前の武器になって、お前を一生守ってやる」
「ユ…―リ。僕も……」
 フレンの眦から綺麗な涙がこぼれ落ちる。
「君のものに」
 ユーリは慈しむように笑みを浮かべると、次の瞬間には真顔になり、先端をフレンの秘孔へと押しつけた。
 そして誰も迎え入れたことのない閉ざされた入り口をゆっくりと押し開いていく。
「あ……あああ……あああっ……」
 苦痛にフレンの眉が固く寄せられ、唇が噛みしめられる。
 一番太い部分をなんとか受け入れさせ、ユーリは痛みに震えるフレンの頬にそっとくちづけた。
「痛いか? もうちょっとだからな」
「いい……痛くても……いいからっ……」
 フレンは震える唇でそう言うと、ユーリにしがみついた。
「いい覚悟だ」
 尚更深く所有しようと、ユーリはフレンの身体へとのしかかった。
 固く凶悪な塊がフレンの身体にゆっくりと打ち込まれていく。
 最奥まで受け入れさせると、徐に腰を退く。
 再び奥まで突き上げ、その速度を徐々に速めていく。
 打ち付ける度に秘孔が固く締まり、フレンの唇から濡れた声が漏れる。
 締め上げる力が強くなり、ユーリは誘われるようにフレンの中に己の欲望を叩きつけた。
 同時にフレンの身体も激しくしなり、絶頂へと達した。


 二人でひとつになる。
 文字通り、二人は職人と武器として、ひとつになり生きていくことになる。