魂喰02

 「ユーリ! ほら、ちゃんとここに座って。ヨーデル様とエステリーゼ様の御前だぞ」
 ザーフィアス城の謁見の間で、フレンはユーリを伴ってヨーデルとエステリーゼの前で膝を折っていた。
 いっこうに頭を垂れようともせず、膝も折ろうとしないユーリに業を煮やし、フレンは小声で幼なじみを叱責する。
 だがユーリはそっぽを向いたまま腕を組み、突っ立っているままだ。
「かまいませんよ。かつてユーリ殿にはエステリーゼが城を出たおり、お世話になったこともあります。私としても、騎士団長であり大切な懐刀のフレンの武器として、ユーリ殿とは懇意でありたいと思いますし」
「はあ……申し訳ありません」
「でも……」
 人好きがする笑みを浮かべながら、ヨーデルは可愛らしく小首をかしげて見せた。
「早く伴侶を見つけるようにとは言いましたが、実際見つけてこられるとちょっとおもしろくないものですねえ。これが娘を持った父親の心境と言ったところでしょうか?」
「ヨ……ヨーデル様! 何をおっしゃられて……」
「はっ! 俺は可愛いフレンの武器にはふさわしくないってか?」
 鼻を鳴らし、どこかおもしろそうにユーリが言う。
「まさか。どれだけ立派な武器を連れてきても、おもしろくないって意味ですよ。可愛いフレンが誰かだけのものになってしまうっていうのがね」
「よ……ヨーデル様。お戯れは……」
 顔を青くしたり赤くしたりしながら、フレンは傍目から見ても可哀想なくらい狼狽している。
「とりあえず、武器に変身してもらいましょうか? まだ貴方の武器の姿を僕は見たことがありませんし」
「あ、私も見たいです」
 エステルも胸の前で手を合わせ、強請るように小首を傾ける。
「ユーリ!」
 フレンの声に、ユーリはだるそうに腕を振った。
「へいへい。仕方ありませんねっと」
 一瞬のうちにして黒い大鎌に変身したユーリは、伸ばしたフレンの手に収まった。
 慣れた手つきで軽やかにスケイスを回しながら、フレンは武器を構える。
「ふむ……」
「あの……、ヨーデル様?」
 どこか考え込むように指先で顎を押さえるヨーデルに、フレンは訝しげに問いかけた。
「今の白い騎士団長の服では、その黒いスケイスは浮きますねえ」
「制服を新調しなければいけませんね! もちろんユーリのも!」
 エステルが微笑む。
「けっ。服なんかいらねえよ!」
 おもしろくなさそうに、ユーリが吐き捨てる。
「そうは行きません。世間的にも騎士団長は騎士団の象徴。このザーフィアスの民たちの尊敬と憧れの対象でなければならぬのですから。そのためにはまず外見ですからね」
「私、すぐに二人の制服をデザインします!」
「頼みます、エステリーゼ」
「まかせてください、ヨーデル!」
 どこかうきうきとしながら、エステリーゼが座を下がる。
「ったく。暢気なことだな」
 呆れたように言いながら、ユーリが元の姿に戻る。
「そうでもないですよ。フレンは剣士でしたから、長い白いマントも映えましたけれど、大鎌ともなれば、マントは邪魔でしょう。どちらかというと動きやすい、身体にフィットした服の方が戦いやすいはずです」
 どこかおっとりとした笑みを浮かべながら、ヨーデルが言う。
「ふーん」
 値踏みをするようにユーリはまじまじとヨーデルの顔を見つめた。
「何も知らないおぼっちゃまかと思ったら、けっこう詳しいわけ? アンタ」
「ヨーデル様は、ご自身も腕のいい職人であらせられるんだ。武器と職人のことなら、何でもご存じだ」
「へー。人は見かけによらないってか?」
 フレンの言葉に、ユーリは面白そうに笑みを浮かべた。
「それでは、ユーリ殿には城の部屋へとご案内しましょう。フレンの自室では少し手狭ですから、二人に新しい部屋を用意させました。誰か……」
 ヨーデルは手を叩き、騎士を呼ぶ。
「っとその前に殿下には聞いて欲しいことがある」
「なんでしょう?」
 ユーリの言葉に、ヨーデルは胸の前に両手を組んで促す。
「言っておくが俺はずっとこの城で暮らすつもりはねーぜ。下町には好きなときにちょくちょく帰らせてもらう」
「ユーリ……」
「そんくらいの我が儘、聞いてくれてもいいだろ?」
「かまいませんよ。フレンさえ承知しているのなら」
「フレン」
 ユーリの視線がフレンに向けられる。
「わかってる。下町が心配なんだろう?」
「そ。あいつら俺がいないと寂しがるしな。ただでさえ年寄りとガキが多い町だし」
「私の方は異論はありません」
 フレンはヨーデルの方へと頭を下げる。
「いいでしょう」
 ヨーデルは深く頷くと、再び人好きがする笑みを頬に浮かべた。
「それではユーリ殿は部屋の方に。フレンはここに残ってください。少しお話しがあります」
「承知いたしました。ユーリ、先に部屋に行っててくれ」
「へいへい」
 片手を振りながら、ユーリは先導する騎士の後へと続く。
 謁見の間を出ると、待ちかまえたようにソディアが廊下の隅に佇んでいた。
 ユーリの姿を見ると、好戦的な瞳を隠そうともせずに歩み寄ってくる。
「なぜ、お前なんだ」
「はぁ?」
 突然かけられた言葉に、ユーリはあっけにとられる。
「ソディア様」
 騎士が阻止しようとするが、ソディアは言葉を止めようとしなかった。
「フレン様のように清廉で美しいお方が、黒くまがまがしい大鎌などを武器にするなど。あの方には白い剣こそ似つかわしい」
「言っとくけどなあ、お姉さん」
 ユーリは意地悪い笑みを浮かべる。
「嫌がる俺をこんな胸くそ悪いお城まで連れてきたのはその清廉で美しいフレン様だぜ? 俺が望んだんじゃねーの。あいつが俺がいいって言ってるんだから仕方ねーだろ? 悪ぃな」
 わざと挑発するように言うと、ソディアはあからさまに顔色を変えた。
 怒りと屈辱で震える唇をかろうじて動かし、何か言い返そうとするが、言葉は形にならない。
 ユーリは呆れたようにため息をつくと、背を向け、騎士に先導するよう促した。
「ったく。城に来たとたんこれかよ。ウザイ三角関係に巻き込まれるのはごめんだっての。もてる恋人を持つと苦労するよな」
 小さく独りごちると、ユーリは背中に突き刺さる視線を感じながら、歩を進めた。



「フレンも、最近特に鬼人の活性化が進んでいるという騎士団の報告を受けているでしょう」
「はい……」
「なぜ人の心がこうも荒らみ、人の魂を捨てる者が現れるのか。すべて僕の不甲斐なさの結果ではあるのですが」
「そんな……。ヨーデル様のせいではありません。長らく皇帝の地位が空いていたために、正しい執政が末端まで行われず、世が荒れたのが原因なのです。それはこれから十分正していくことができるはず。今はヨーデル様がその地位についておられるのですから」
 ヨーデルは優しく微笑み、ありがとうと呟いた。
「でも、皇帝の座を争い、長らく治世を放棄していたのは我々皇族と、権力者の責任。その責を負うためにも、一日も早く一人でも多くの鬼人たちの魂を鎮めなければなりません。
つらい任務になりますが、耐えてくれますね、フレン」
「もちろんです」
 フレンは深々と頭を下げる。
「というわけで」
 うって変わった明るい声でヨーデルが続ける。
「は?」
「任務です! フレン。まあ腕試しって感じですね。帝都の騎士団を手こずらせていた子供ばかり狙う殺人鬼を、初陣にして撃破したフレンとユーリ殿にはいささかヌルい任務かもしれませんけど」
「そんなことは……」
「用意ができ次第向かっていただきたいのです。まずは、エステリーゼの制服待ちってとこでしょうかね」
「そんなゆっくりで……いいんですか?」
「今回は任務でもありますが、お二人の演習でもありますから。差し迫った事件という訳ではないんですよ」
「はあ……。ヨーデル様がそうおっしゃるのなら」
 どこか釈然としない表情でフレンはヨーデルの前から辞すると、ユーリが先に行って待っているであろう、これから二人の新居となる部屋へと向かった。
 前に使っていた一人部屋とは違って、二人で住むには十分すぎるほどの広い部屋をヨーデルから与えられていた。
 結婚祝いだからなどとふざけた調子でヨーデルに告げられたのだが、ある意味間違ってはいない。
 ドアを開けると広いリビングがあり、その奥に各私室がある。
 どちらの部屋も二人で寝ても広すぎるほどのベッドが設置されている。
「そう言えば、どっちがどの部屋を使うとか決めてないな」
 思わず独りごちると、聞き慣れた声が背後からした。
「別にどっちでもいいんじゃねーの。どっちかしか使わねーんだから」
「ユーリ! いったいどこから。っていうかどっちかしか使わないって」
 どういう意味か問う間でもなく、フレンは後ろからユーリに抱きしめられていた。
「浴室もすげー広いぜ。ったく、下町の俺の部屋より広いってどういうことだよ」
「風呂入ってたのかい?」
「そ、やることもねーから」
 そう言いながらも、ユーリの指先は器用にフレンの騎士服を脱がせにかかっている。
「ちょっと待ってくれ。ここじゃ……」
「早速魂の共鳴しようって。そのための二人部屋だろ?」
「でも食事もまだ……」
「食事よりお前食いたい」
「だからちょっと待って……」
「あー、うるせー!」
 ユーリは軽々とフレンを抱き上げると、寝室のドアを蹴飛ばして開け、ベッドへと放り投げた。
「ユーリ!」
 思わず起き上がろうとしたところを両手を捕らえられ、シーツに押しつけられる。
「覚悟決めろって言っただろ? この俺を武器にしたんだぜ、お前は」
 長い髪を乱しながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるユーリは、フレンが息を呑むくらいに美しく、官能的だ。
「もう……君っていうヤツは」
 頬を赤らめながら、フレンは金色の長い睫を伏せる。
「お? 観念したか?」
「仕様がないだろ」
 フレンは身体から力を抜くと、そっと瞳を閉じ、のしかかってくる身体の重みを大人しく受け止めた。


妙に手際よく着ているものをすべてはぎ取ると、ユーリはフレンの首筋にかみつくように口づけを繰り返した。
 くすぐったそうに首をすくめ、フレンは盛りがついた獣のように求めてくるユーリをなんとか押しとどめようと肩を押す。
「あんだよ?」
 とたんに不機嫌な声が上から振ってきて、フレンは思わず拗ねたように唇を尖らせる。
「ユーリ、わかってると思うけど」
「あん?」
「昨日の今日で……その……」
 フレンの言葉がとたんに歯切れが悪くなる。
 それどころかうっすらと頬を赤らめ、つと視線をそらす。
「どした?」
「まだ……痛むんだ。その……」
「ああ」
 合点がいき、ユーリは頷いた。
 昨晩、ユーリとフレンは結ばれたばかりだ。
 それなりに場数をこなしているユーリですら、知識としては知っていても、実際男を抱くのは初めてだった。
 フレンにとってはそれ以上だ。
 女性とのファーストキスも経験する前に、親友に何もかも奪われたのだから。
「んな痛むかあ? けっこう優しくしたつもりなんだけどなっと」
 そう言いながら、フレンの右の足首を掴み、高く持ち上げ、腹につくほど折り曲げた。
「ちょっ!」
「どれ?」
 あらわになった秘所にユーリの視線が注がれる。
「やっ……! ユーリ何する……!」
「何するって、いてーっつーから具合を見てるんだろ?」
 そう言いながら、指先を再び固く閉ざされた蕾へと押しつけ、優しく撫でた。
「やああっ……」
 思わずフレンの唇から悲鳴が漏れる。
「見た感じケガしてるようには見えねーけど、ま、ちょっと赤くなってるかな?」
 そう言うと、ユーリの体が下腹部へと下がっていく。
 今度はもう片方の足首もとらえ、膝を腹へ押しつけるように、フレンの体を折り曲げた。
 秘められた箇所がなおさら大きく広げられる。
「ユーリっ!」
 羞恥に耐えきれず、フレンが抗議の声をあげる。
 だがユーリは構わなかった。
「切れてもねーぞ? どんな風に痛いんだ?」
「やっ……。もういやっ……」
 泣き言は無視し、ユーリはそっとそこに舌を押し当てる。
「ああんっ……」
 とたんに上がる可愛らしい声を堪能しながら、ねっとりと舌を動かし、唾液を奥へと押し込む。
 まだ熱くなりきらないモノも無遠慮に掴み、上下にゆっくりとしごいた。
「あ……やあ……もっ……やだって……」
「何言ってんだ、今更」
 すっぽりと口腔に先端を含み、音を出しながら激しく吸う。
 それと同時に、唾液でぬらした秘所へと中指をゆっくりと挿入した。
「や……やああ……もっ……やっ……」
 鳴き声をあげてフレンが左右に頭を振る。
 枕に頬を押し当て、否応もなく与えられる痛みと快感になすすべもなく耐えている。
 フレンの心とは反対に、体が容赦なく熱くなり、ユーリの口の中で徐々にそれは固くなっていく。
「も……や……痛い……」
「うそだろ。こんなに呑み込んでんのに?」
 ゆっくりと中指を出し入れする。
 内部からは濡れた音がいやらしく響いてくる。
「や……ああ……」
「ここだって固くなってんじゃん」
 そう言うと、ユーリは再び屹立するそれに唇を寄せきつく吸う。
と同時に内壁をえぐるように指を折り曲げ、感じる部分を容赦なく擦った。
「やあああ……も……イク……」
 身もだえながらフレンが切なく声をあげる。
「イっちゃえって」
「だめっ……ああっ……やあ……」
 絶頂と共に、ユーリの唇から解放されたそこから飛沫がほとばしり、白い下腹を濡らした。
 全部搾り取るように上下に扱きながらも、内部に入れた指はそのまま抽送を続ける。
「や……だめっ……あっ……」
 ユーリの指を拒みながら、フレンが激しく身をよじる。
 絶頂を迎えた後の体はひどく感じやすい。
 限界を超えた快感に、フレンは鳴き声をあげてユーリの指から逃れようとした。
「だめ? 何がだめ?」
 おもしろがるような口調で、ユーリはフレンの耳元で囁く。
 片足だけ高くあげさせ、足の間の奥まった場所に容赦なく指をつきたてる。
 と同時に濡れた淫猥な音が挿入するたびに響き渡る。
「ほら、聞こえるか? すげー音」
「やっ……やあ……」
 口元の指を噛みながら、フレンはきつく瞳を閉じて暴力のような刺激に耐えている。
「もう……や……ゆーりぃ……」
 無意識なのだろうが、どこか媚びるような、甘えた声でフレンはユーリの名前を呼ぶ。
「欲しい? 挿れるか?」
「ん……やっ……」
 むずがるように今度は首を振る。
「どっちなんだよ」
 呆れたように、だが心底愛おしそうにユーリが微笑む。
「じゃ、挿れましょうかねえ」
 軽い口調でそう言うと、ユーリはフレンの腰を引き寄せた。
 大きく両足を広げさせ、ゆっくりとそこに己を押し当てる。
「あ……」
 怯えたように瞳を開き、フレンがユーリを見上げてくる。
「大丈夫だって。もうちゃんと準備出来てるから。昨日よりは痛くないと思うぜ?」
 そう言うと、ぐっと体重をかけてフレンの中に滾ったものを埋め込んでいく。
「あ……あっ……ああっ……」
 衝撃に驚いたような顔をしたかと思うと、一瞬にしてフレンの顔が苦痛にゆがむ。
 緊張のあまりか下腹にぐっと力が入ったのがわかった。
 先端を少し挿入しただけで内部から激しい抵抗を感じ、ユーリは苦笑して体を前に倒し、フレンの唇を求めた。
 音をたてて優しくくちづける。
「もちっと力抜けね?」 
 再び少し深く挿入しただけで、フレンの体が緊張のあまりに硬くなる。
「あ……」
「ってやっぱ無理か」
 わざとらしくため息をついて、ユーリは再びフレンの腰を抱いた。
「じゃ、ちょっと乱暴になっちまうけど仕方ないってことで」
「え?」
 怯えた瞳に罪悪感がわかないこともなかったが、このままずっと中途半端につながっているわけにもいかない。
 体を前に倒し、フレンの首筋にくちづけながら、ユーリはゆっくりと狭い入り口を押し広げ、内部へと漲りを埋め込んでいく。
「あ……やあああ……」
 ユーリの背にしがみつきながら、フレンが苦痛の声をあげる。
 宥めるように何度も頬や額にくちづけながら、奥深いところまで受け入れさせた。
 無意識に内部がまるでけいれんしているかのように、小刻みにユーリを締め上げる。
 まるでもっと奥へと誘っているようだ。
「ほんと、すげー体」
「ユ……リ……」
「全部入ったって。我慢出来ないくらい痛いわけじゃないだろ?」
 ユーリの言葉に、どこか幼い仕草でフレンがこくりと頷く。
「じゃ、動くからな」
「ん……」
 再び頷くのを確認してから、ユーリはゆっくりと腰を引いた。
 浅く何度か抽送を繰り返し、フレンの体がユーリを覚えるまで根気よく蕾を広げた。
 そのうち、フレンの表情から痛みが消えると、今度は奥まで己を埋め込んでいく。
「あ……あんっ……」
 突くたびに上がる甘い声に、ユーリは薄く笑みを浮かべた。
 穿とうとすると拒み、出て行こうとするとからみついてくる熱い肉に、ユーリは確実に絶頂へと追い上げられていく。
 フレンもまた、乱暴に内部をかき回すように深く突かれ、既に耐え難いほどの快感をその身に受けていた。
 荒い息を絡ませながら、どちらともなく二人は深くくちづけあう。
「フレンっ……いいか? 中に出すぞ?」
「ユーリっ……」
 体を揺さぶられながらも、フレンは小さく頷く。
「っ……」
「あ……やああっ……」
 深々と奥まった場所まで貫かれ、足の指の先まで快感が走り、フレンは白い喉をのけぞらせて達した。
 そしてユーリも、何度も繰り返し腰をうちつけ、愛しい体の奥に欲望のすべてを注ぎこんだ。