魂喰03
数日後、二人はヨーデルに指定されたザーフィアス市民街のはずれにある古ぼけた屋敷へと来ていた。
フレンの出立は、以前の白と青を基調にした鎧ではなく、漆黒のものに変わっていた。長いマントの代わりに膝下までの長いコートに変更され、見た目前よりも軽装だが、使われている素材はずっと丈夫で重い鎧よりも俊敏に動けるようにデザインされている。
ユーリもまた上下漆黒で、フレンのものよりも丈が短く、より活動的な装いになっている。
「んで? ここに誰がいるって?」
屋敷を見上げながらユーリが問う。
壁という壁をツタがはい回り、窓ガラスはところどころ割れ、本当に人が住んでいるのかいぶかしむほど屋敷は荒れ、いかにもおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
「鬼人化しそうな男が一人ですんでるらしい。過去の犯罪歴を見ても、今にも鬼人化してもおかしくないそうだ」
「そんな危険なヤツ、なんで今までタイホしなかったわけ?」
「出来なかったんだ」
フレンはそう言うと、一歩前に進んだ。
「確かに力を感じる……。禍々しい何かを」
「そっか? 俺には何も感じないけど?」
二人の前に固く閉ざされていた玄関の扉が、きしんだ音を立ててゆっくりと開いていく。
思わず緊張に体を硬くし、二人は開かれた扉から現れるであろう人物を、固唾を呑んで見守った。
「おんや?」
予想に反して、その声は妙に明るく、そして軽かった。
「久しぶりのお客さんってわけ? 今回はずいぶん若いのねえ」
「お前は……」
漆黒のぼさぼさの髪を無造作に結い上げ、無精髭を生やしたその男は、どこかひょうひょうとしながら二人に問いかけた。
「んで? またヨーデル殿下の命令で来たの? お前さんたちも懲りないわねえ」
「アンタが鬼人化しそうなオッサンなわけ? ずいぶん迫力ないのな」
「人を見た目で判断しちゃだめよぉ」
男は指を左右に振るとまっすぐに二人に視線を向けてきた。
先ほどのおちゃらけた様子は消え、背中に怖気が走るほどの殺気が迸る。
「ユーリ!」
フレンが固く、低い声で相棒を呼ぶ。
ユーリは無言のまま武器に変身すると、フレンの手に収まった。
「おんや? 若き騎士団長の武器は白い剣だって聞いてたけど?」
「僕を知っているのか?」
「そりゃ、帝都でお前さんを知らない人物はいないでしょ。謀反を起こしたアレクセイに変わって帝都を守り、若干二十一歳で騎士団長代理に任命された希望の星。フレン・シーフォ君でしょぉ? そんな御仁をずたずたに切り裂いたとしたら……」
男の唇がいやな形につり上がる。
「俺の魂もますます鬼人化するってもんだよねぇ?」
「ユーリ!」
言い終わると同時に、男が走り寄ってくる。
思いの外早い。
フレンは武器を大きく振って男を牽制するが、男の方が早かった。
ユーリの刃を避け、フレンの懐に飛び込む。
片手でフレンを石畳に押し倒し、腕を振り上げる。
その手にはいつの間にか鈍く光る短刀が握られている。
「この!」
覆い被さる男の体をフレンは思い切り蹴り上げた。
吹っ飛ばされた男が着地をすると同時にフレンもまた体制を整えた。
「こいつ……見た目とは違うようだぞ?」
「そうだね」
ユーリの言葉に、フレンが同意する。
「だけど、鬼人化する魂を放っておくわけにはいかない」
スケィスを構え、フレンは男を正面から見据えた。
「必ずこの手で鎮める」
「ご苦労様なことだねぇ」
斬りかかるフレンを軽々とよけながら、男が揶揄するように言う。
「でも……」
男の手に握られた弓から衝撃波が打ち込まれる。
一つ二つは避けたが、無数に飛んでくる攻撃を避けきれるものではない。
胸に、腹に衝撃を受け、フレンははねとばされ、そして地に叩きつけられた。
「痛っ……」
「フレン!」
「だい……丈夫」
地面に叩きつけられた衝撃をバネに立ち上がると、フレンは再びスケィスを構える。
目の前の男は飄々と微笑みながら、おもしろそうにフレンを見つめている。
「若人は殿下のお気に入りなわけぇ? 確かに可愛い顔してるけどぉ」
「戯れごとを」
「可愛いから可愛いって言ってるの。なんかおっさん気に入っちゃった」
口調は軽いが、目は笑ってはいない。それどころか、その奥に深い闇と狂気がかいま見える。背中を怖気が駆け上り、肌が粟立つ。
「フレン……」
気遣うようにユーリがフレンの名前を呼ぶ。
「大丈夫だ」
「まだやるの? 無理だと思うけど」
「鬼人化する魂を放ってはおけない。人々のためにも……」
フレンの瞳が鋭く細められる。
「君の魂のためにもね」
地をけり、大きく跳躍してフレンは男へとスケィスを振り下ろす。男は身をかがめ、素早くフレンの懐に入ると、スケィスの柄の部分を片手で押さえた。
男の信じられない素早い身のこなしに、驚きのあまりフレンの青い瞳が見開かれる。
その瞬間、フレンの腹に男の拳が食い込み、勢いよく飛ばされる。
屋敷の壁にいやというほど叩きつけられ、ユーリは衝撃のあまり人の姿に還り、その場に倒れた。
スケィスを手放したフレンもまた、背に壁を受けながらずり落ちた。
もううめき声すらあげられない。
「こ……この!」
全身に走る痛みをこらえ、ユーリはなんとか起き上がろうとしたが、腕すらぴくりとも動かせない。
男の足がゆっくりと座り込んでいるフレンへと進んでいく。
「てめっ……フレンに何しやがる!」
「うるさい子だねえ」
おもしろくなさげに男はつぶやくと、弓から衝撃波を放つ。
ユーリは容赦なく再び吹き飛ばされ、地面へとたたきつけられる。
「くっ……そ」
それでも立ち上がろうとするユーリを、男はおもしろそうに見つめる。
「どうしてそこまでがんばるの? こんなことしてたら、おまえさん、死ぬよ?」
「けっ……、てめーみたいなヤツにはわかんねえだろうけどな」
苦しい息の中でユーリは吐き捨てるように言う。
「武器は……職人のためならばいつでも命は捨てる……覚悟なんだよ」
おもしろそうに男の口の端が上がる。
「俺が生きてそいつが死ぬなんて……許されねえんだよ」
「立派な心がけだけど、動けなきゃ意味ないよね」
嘲笑するように言うと、男の指がフレンの首にかかる。
朦朧とした意識の中、なんとか体を動かそうとしているようだが、かろうじて薄く瞳を開いた後、フレンは男に身を預けるように崩れ落ちた。
「フレン!」
「やっぱこの子可愛いわぁ。おっさんほれちゃいそう」
腕の中にもたれてくる体を抱きしめると、男の指がフレンの顎へと触れ、上へと持ち上げる。小さく開いた唇に、男の顔が近づいていく。
「ふざけろっ!」
「おわっ!」
フレンとの間に庇うようにユーリの体が割ってはいり、男の体をはじき飛ばした。片腕を武器化させ、もう片方の腕には愛しい恋人の体を抱え込む。
「どこにそんな動く力あったの? おっさんびっくり」
「言っただろ。俺はこいつを守るために存在してんだよ。目の前でむざむざ他の男に触れられるのを黙って見ていられるか!」
額から血を流し、荒い息の中でも、ユーリはフレンを抱きしめ、気丈に敵をにらみつける。
「よく言うわぁ。そんな虫の息でさー。でもまあ……」
男の顔が一瞬凶悪に歪められる。
だが次の瞬間には、今までとは打って変わった人なつっこい笑みを浮かべ、ユーリたちを覗き込んだ。
「ごうかくー! かな?」
「は?」
「俺の名前はシュヴァーン・オルトレイン。帝国騎士団長首席、なのよん。今日はヨーデル殿下の指示で、君たちの力を見定めるために、こんなお芝居うったってわけ。あ、普段はレイヴンって呼んでね。こっちが通り名だからさ」
「はぁ?」
ユーリの顔が限界まで歪む。
と、その時。
「すばらしい戦いでしたよ、ユーリ殿」
突如後ろから声がしたかと思うと、ヨーデルが、そしてエステリーゼが姿を現した。
「……ヨーデル……エステルも」
「あら大変。二人ともケガしてます。待っててください。今治療しますから」
エステリーゼが慌てて二人にかけより、治癒術をかける。
「フレンの方がダメージ強いみたいです。しばらく目を覚まさないかもしれません」
エステリーゼが心配そうに言う。
「仕方ないんじゃないのぉ? お姫様の方が騎士を庇ってたからねえ」
「なんだと?」
レイヴンの言葉に、ユーリが眉を上げる。
「おまえさんたち仲いいのはわかるんだけど、お互い庇いあって戦っちゃだめなのよん。だから二人とも、持っている力を百パー出し切れてないわけ。相手を大切に思う気持ちはいいんだけどさ」
にやりとレイヴンが口の端をあげ、意地悪い笑みを浮かべる。
「相手を庇うってことは、ある意味お互いを信じてないってことでもあるからね」
「なんだと?」
「だってそうでしょ。自分を盾にして相手を庇うっていうことはさ、相手が弱いって思ってることじゃない。お互いを信じ合ってる武器と職人はかばい合ったりしないものよ」
ユーリの拳がぎりりと握りしめられる。
「ま、それがお前さんたちの今後の課題かなあ」
そういうと、レイヴンは背を向けて、ひらひらと手を振った。
「後はよしなに。ヨーデル殿下」
「ご苦労でした、シュヴァーン」
ユーリたちの元に、ヨーデルが手配した豪奢な馬車が到着する。
だが、ユーリは気を失ったままのフレンを抱きしめながら、じっとレイヴンが消えていった屋敷の扉をにらんでいた。
フレンの出立は、以前の白と青を基調にした鎧ではなく、漆黒のものに変わっていた。長いマントの代わりに膝下までの長いコートに変更され、見た目前よりも軽装だが、使われている素材はずっと丈夫で重い鎧よりも俊敏に動けるようにデザインされている。
ユーリもまた上下漆黒で、フレンのものよりも丈が短く、より活動的な装いになっている。
「んで? ここに誰がいるって?」
屋敷を見上げながらユーリが問う。
壁という壁をツタがはい回り、窓ガラスはところどころ割れ、本当に人が住んでいるのかいぶかしむほど屋敷は荒れ、いかにもおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
「鬼人化しそうな男が一人ですんでるらしい。過去の犯罪歴を見ても、今にも鬼人化してもおかしくないそうだ」
「そんな危険なヤツ、なんで今までタイホしなかったわけ?」
「出来なかったんだ」
フレンはそう言うと、一歩前に進んだ。
「確かに力を感じる……。禍々しい何かを」
「そっか? 俺には何も感じないけど?」
二人の前に固く閉ざされていた玄関の扉が、きしんだ音を立ててゆっくりと開いていく。
思わず緊張に体を硬くし、二人は開かれた扉から現れるであろう人物を、固唾を呑んで見守った。
「おんや?」
予想に反して、その声は妙に明るく、そして軽かった。
「久しぶりのお客さんってわけ? 今回はずいぶん若いのねえ」
「お前は……」
漆黒のぼさぼさの髪を無造作に結い上げ、無精髭を生やしたその男は、どこかひょうひょうとしながら二人に問いかけた。
「んで? またヨーデル殿下の命令で来たの? お前さんたちも懲りないわねえ」
「アンタが鬼人化しそうなオッサンなわけ? ずいぶん迫力ないのな」
「人を見た目で判断しちゃだめよぉ」
男は指を左右に振るとまっすぐに二人に視線を向けてきた。
先ほどのおちゃらけた様子は消え、背中に怖気が走るほどの殺気が迸る。
「ユーリ!」
フレンが固く、低い声で相棒を呼ぶ。
ユーリは無言のまま武器に変身すると、フレンの手に収まった。
「おんや? 若き騎士団長の武器は白い剣だって聞いてたけど?」
「僕を知っているのか?」
「そりゃ、帝都でお前さんを知らない人物はいないでしょ。謀反を起こしたアレクセイに変わって帝都を守り、若干二十一歳で騎士団長代理に任命された希望の星。フレン・シーフォ君でしょぉ? そんな御仁をずたずたに切り裂いたとしたら……」
男の唇がいやな形につり上がる。
「俺の魂もますます鬼人化するってもんだよねぇ?」
「ユーリ!」
言い終わると同時に、男が走り寄ってくる。
思いの外早い。
フレンは武器を大きく振って男を牽制するが、男の方が早かった。
ユーリの刃を避け、フレンの懐に飛び込む。
片手でフレンを石畳に押し倒し、腕を振り上げる。
その手にはいつの間にか鈍く光る短刀が握られている。
「この!」
覆い被さる男の体をフレンは思い切り蹴り上げた。
吹っ飛ばされた男が着地をすると同時にフレンもまた体制を整えた。
「こいつ……見た目とは違うようだぞ?」
「そうだね」
ユーリの言葉に、フレンが同意する。
「だけど、鬼人化する魂を放っておくわけにはいかない」
スケィスを構え、フレンは男を正面から見据えた。
「必ずこの手で鎮める」
「ご苦労様なことだねぇ」
斬りかかるフレンを軽々とよけながら、男が揶揄するように言う。
「でも……」
男の手に握られた弓から衝撃波が打ち込まれる。
一つ二つは避けたが、無数に飛んでくる攻撃を避けきれるものではない。
胸に、腹に衝撃を受け、フレンははねとばされ、そして地に叩きつけられた。
「痛っ……」
「フレン!」
「だい……丈夫」
地面に叩きつけられた衝撃をバネに立ち上がると、フレンは再びスケィスを構える。
目の前の男は飄々と微笑みながら、おもしろそうにフレンを見つめている。
「若人は殿下のお気に入りなわけぇ? 確かに可愛い顔してるけどぉ」
「戯れごとを」
「可愛いから可愛いって言ってるの。なんかおっさん気に入っちゃった」
口調は軽いが、目は笑ってはいない。それどころか、その奥に深い闇と狂気がかいま見える。背中を怖気が駆け上り、肌が粟立つ。
「フレン……」
気遣うようにユーリがフレンの名前を呼ぶ。
「大丈夫だ」
「まだやるの? 無理だと思うけど」
「鬼人化する魂を放ってはおけない。人々のためにも……」
フレンの瞳が鋭く細められる。
「君の魂のためにもね」
地をけり、大きく跳躍してフレンは男へとスケィスを振り下ろす。男は身をかがめ、素早くフレンの懐に入ると、スケィスの柄の部分を片手で押さえた。
男の信じられない素早い身のこなしに、驚きのあまりフレンの青い瞳が見開かれる。
その瞬間、フレンの腹に男の拳が食い込み、勢いよく飛ばされる。
屋敷の壁にいやというほど叩きつけられ、ユーリは衝撃のあまり人の姿に還り、その場に倒れた。
スケィスを手放したフレンもまた、背に壁を受けながらずり落ちた。
もううめき声すらあげられない。
「こ……この!」
全身に走る痛みをこらえ、ユーリはなんとか起き上がろうとしたが、腕すらぴくりとも動かせない。
男の足がゆっくりと座り込んでいるフレンへと進んでいく。
「てめっ……フレンに何しやがる!」
「うるさい子だねえ」
おもしろくなさげに男はつぶやくと、弓から衝撃波を放つ。
ユーリは容赦なく再び吹き飛ばされ、地面へとたたきつけられる。
「くっ……そ」
それでも立ち上がろうとするユーリを、男はおもしろそうに見つめる。
「どうしてそこまでがんばるの? こんなことしてたら、おまえさん、死ぬよ?」
「けっ……、てめーみたいなヤツにはわかんねえだろうけどな」
苦しい息の中でユーリは吐き捨てるように言う。
「武器は……職人のためならばいつでも命は捨てる……覚悟なんだよ」
おもしろそうに男の口の端が上がる。
「俺が生きてそいつが死ぬなんて……許されねえんだよ」
「立派な心がけだけど、動けなきゃ意味ないよね」
嘲笑するように言うと、男の指がフレンの首にかかる。
朦朧とした意識の中、なんとか体を動かそうとしているようだが、かろうじて薄く瞳を開いた後、フレンは男に身を預けるように崩れ落ちた。
「フレン!」
「やっぱこの子可愛いわぁ。おっさんほれちゃいそう」
腕の中にもたれてくる体を抱きしめると、男の指がフレンの顎へと触れ、上へと持ち上げる。小さく開いた唇に、男の顔が近づいていく。
「ふざけろっ!」
「おわっ!」
フレンとの間に庇うようにユーリの体が割ってはいり、男の体をはじき飛ばした。片腕を武器化させ、もう片方の腕には愛しい恋人の体を抱え込む。
「どこにそんな動く力あったの? おっさんびっくり」
「言っただろ。俺はこいつを守るために存在してんだよ。目の前でむざむざ他の男に触れられるのを黙って見ていられるか!」
額から血を流し、荒い息の中でも、ユーリはフレンを抱きしめ、気丈に敵をにらみつける。
「よく言うわぁ。そんな虫の息でさー。でもまあ……」
男の顔が一瞬凶悪に歪められる。
だが次の瞬間には、今までとは打って変わった人なつっこい笑みを浮かべ、ユーリたちを覗き込んだ。
「ごうかくー! かな?」
「は?」
「俺の名前はシュヴァーン・オルトレイン。帝国騎士団長首席、なのよん。今日はヨーデル殿下の指示で、君たちの力を見定めるために、こんなお芝居うったってわけ。あ、普段はレイヴンって呼んでね。こっちが通り名だからさ」
「はぁ?」
ユーリの顔が限界まで歪む。
と、その時。
「すばらしい戦いでしたよ、ユーリ殿」
突如後ろから声がしたかと思うと、ヨーデルが、そしてエステリーゼが姿を現した。
「……ヨーデル……エステルも」
「あら大変。二人ともケガしてます。待っててください。今治療しますから」
エステリーゼが慌てて二人にかけより、治癒術をかける。
「フレンの方がダメージ強いみたいです。しばらく目を覚まさないかもしれません」
エステリーゼが心配そうに言う。
「仕方ないんじゃないのぉ? お姫様の方が騎士を庇ってたからねえ」
「なんだと?」
レイヴンの言葉に、ユーリが眉を上げる。
「おまえさんたち仲いいのはわかるんだけど、お互い庇いあって戦っちゃだめなのよん。だから二人とも、持っている力を百パー出し切れてないわけ。相手を大切に思う気持ちはいいんだけどさ」
にやりとレイヴンが口の端をあげ、意地悪い笑みを浮かべる。
「相手を庇うってことは、ある意味お互いを信じてないってことでもあるからね」
「なんだと?」
「だってそうでしょ。自分を盾にして相手を庇うっていうことはさ、相手が弱いって思ってることじゃない。お互いを信じ合ってる武器と職人はかばい合ったりしないものよ」
ユーリの拳がぎりりと握りしめられる。
「ま、それがお前さんたちの今後の課題かなあ」
そういうと、レイヴンは背を向けて、ひらひらと手を振った。
「後はよしなに。ヨーデル殿下」
「ご苦労でした、シュヴァーン」
ユーリたちの元に、ヨーデルが手配した豪奢な馬車が到着する。
だが、ユーリは気を失ったままのフレンを抱きしめながら、じっとレイヴンが消えていった屋敷の扉をにらんでいた。