小さな棘すら
息つく暇もなく絶頂に追い上げられ、一瞬気を失ったのだろう。
ぼんやりと霞む視界が徐々に明確になっていくと、目の前に心配そうなユーリの顔が見えた。
「大丈夫か?」
「あ……ああ……」
体中のあちこちが痛い。
恋人との情事は、激しくて熱い。
いつも途中でわけがわからなくなり、気がつくと意識を失っている始末だ。
「もう少しお手柔らかに頼みたいよ」
掠れた声でフレンが言う。
「馬鹿言え。お前が弱すぎるんだよ」
意地悪い笑みを浮かべ、ユーリが指先で額をつついてくる。
「ほんと弱いよな。快感に」
「なっ」
瞬時に頬が沸騰したように赤くなり、フレンは目の前の恋人をにらみつけた。
「べ……別にぼくのせいじゃない。君が……」
「俺が?」
口ごもったフレンを見て、ユーリはニヤリと笑った。
その先の言葉は、口にしなくてもわかる。
「ま、俺うまいし?」
「うまいとか言うな!」
「じゃあテクニシャン」
「同じ事だ」
ぷいっと子供が拗ねたように背中を向けて、フレンがシーツを被る。
そんな仕草が可愛らしくて、ユーリは思わず小さく笑みを浮かべた。
「ユーリは……」
シーツの中からくぐもった声が聞こえてきた。
「ん?」
「いろいろ……経験が……あるのか?……その……」
「経験?」
フレンらしくない歯切れの悪さに、ユーリは首をかしげる。
「こういう……」
「ああ……」
何を言いたいのか合点がいき、ユーリは大きく頷いた。
「セックスね。他のヤツともやったことあんのかってことか」
「せ……っ」
口ごもり、真っ赤になりながら振り返るフレンに、ユーリはいたずらっぽい笑みを向けた。
「そりゃ、まあ多少はな。健康な成人男子だし?」
「そう……か」
ユーリの言葉に、フレンはうつむき、手の中のシーツをぎゅっと握りしめた。
「君が……愛した女性なら……その……、すばらしい人だったんだろうな」
「は?」
「どうして……別れたりしたんだ?」
「何だって?」
「つきあっていた……恋人がいたんだろう?」
突然のフレンの言葉に、ユーリの瞳が大きく見開かれる。
「何言ってんだ、お前」
「だって……、君が言ったんだぞ、多少は経験があるって」
「それと恋人がいたことがどうして繋がるんだよ」
「え……?」
今度はフレンが豆鉄砲を食らったような顔をする。
「だ……だって」
「恋人じゃなきゃセックス出来ねえってわけじゃないだろ? どこまでおこちゃまなんだお前は」
呆れたように肩をすくめるユーリを見つめるフレンの視線が、徐々に剣呑なものに変わっていく。
「じゃあ、君は愛もない女性を抱いたというのか?」
「そりゃ、男の性っつーか、あらがえない生理的欲求だしな」
さらりと流されて、フレンの瞳が憤怒を通り越し、今度は悲しみの色へと変わっていく。
ユーリの乾いた言葉に、胸の奥が棘を打ち込まれたように鈍く痛み出す。
フレンは無言のまま堅くシーツを握りした。
むき出しになっている白い肩は微かに震えている。
「おい……?」
その様子にさすがに不安になり、ユーリはフレンへと指を伸ばした。
だが、触れる前にあからさまに身体をよけられ、ユーリの指は肌に触れることなく宙を掴んだ。
「それじゃ、ぼくとも……。この関係も単なる生理的欲求で……」
「何言ってんだ、ばっか。極端から極端に飛びすぎだぞ、お前」
呆れたように深くため息をつくと、今度は逃げられないように、強引に身体ごとフレンを抱き寄せた。
「ほんと馬鹿だなあ、お前」
「人を馬鹿とか言うな!」
「馬鹿だけど、可愛いって言ってんだよ」
そう言いながら耳朶にくちづけ、金色の髪を指先で梳く。
「俺はさ、どっちかってーと女の方が好きなの。つーか女の身体の方が好きなんだよ」
びくりとフレンの肩が揺れる。
「でもさ、お前は特別なんだ。男とか女とかヌキにして、お前が一番好きだ。お前しか抱きたいと思わない」
「ユーリ……」
白い頬を真っ赤に染めながら、潤んだ瞳でフレンが見上げてくる。
その可愛らしさにユーリは大げさに肩をすくめ、ため息をついた。
「ったく、計算してるわけでもないのに、ほんとどうしてこうかな?」
同じ年の同じ男にこんな風に思うなんて、本当に終わってる。
終わってるが仕方がない。
「な……何が?」
「俺のツボをついてくるってこと」
「あ、ちょっと……」
再びベッドに押し倒され、首筋を強く吸われる。
与えられる快感に屈服しそうになるが、なし崩しにまた身体を開かされるわけにはいかない。
既に身体は疲れ切っている。
フレンはなんとか逃れようと身体をよじった。
「愛してるなら拒むなよ。これは愛するもの同士しか出来ない行為だろ?」
耳元で囁かれた甘い声に、抵抗する力が抜けていってしまう。
「ユーリ……」
「俺ももう、本当に愛しているヤツとしかしないからさ」
いちいち言うことがカンに触って腹が立つ。
腹が立つが、拒めない。
頑なに触れてくる唇を堅く閉ざすことで拒んでいたが、結局は執拗に求められ、唇の奥を許してしまうことになる。
本当に馬鹿だ、ぼくは……。
自嘲気味に笑いながらも、心の中は暖かいもので満たされていて、フレンは瞳を閉じると、覆い被さってくるユーリの背中にしがみついた。
ぼんやりと霞む視界が徐々に明確になっていくと、目の前に心配そうなユーリの顔が見えた。
「大丈夫か?」
「あ……ああ……」
体中のあちこちが痛い。
恋人との情事は、激しくて熱い。
いつも途中でわけがわからなくなり、気がつくと意識を失っている始末だ。
「もう少しお手柔らかに頼みたいよ」
掠れた声でフレンが言う。
「馬鹿言え。お前が弱すぎるんだよ」
意地悪い笑みを浮かべ、ユーリが指先で額をつついてくる。
「ほんと弱いよな。快感に」
「なっ」
瞬時に頬が沸騰したように赤くなり、フレンは目の前の恋人をにらみつけた。
「べ……別にぼくのせいじゃない。君が……」
「俺が?」
口ごもったフレンを見て、ユーリはニヤリと笑った。
その先の言葉は、口にしなくてもわかる。
「ま、俺うまいし?」
「うまいとか言うな!」
「じゃあテクニシャン」
「同じ事だ」
ぷいっと子供が拗ねたように背中を向けて、フレンがシーツを被る。
そんな仕草が可愛らしくて、ユーリは思わず小さく笑みを浮かべた。
「ユーリは……」
シーツの中からくぐもった声が聞こえてきた。
「ん?」
「いろいろ……経験が……あるのか?……その……」
「経験?」
フレンらしくない歯切れの悪さに、ユーリは首をかしげる。
「こういう……」
「ああ……」
何を言いたいのか合点がいき、ユーリは大きく頷いた。
「セックスね。他のヤツともやったことあんのかってことか」
「せ……っ」
口ごもり、真っ赤になりながら振り返るフレンに、ユーリはいたずらっぽい笑みを向けた。
「そりゃ、まあ多少はな。健康な成人男子だし?」
「そう……か」
ユーリの言葉に、フレンはうつむき、手の中のシーツをぎゅっと握りしめた。
「君が……愛した女性なら……その……、すばらしい人だったんだろうな」
「は?」
「どうして……別れたりしたんだ?」
「何だって?」
「つきあっていた……恋人がいたんだろう?」
突然のフレンの言葉に、ユーリの瞳が大きく見開かれる。
「何言ってんだ、お前」
「だって……、君が言ったんだぞ、多少は経験があるって」
「それと恋人がいたことがどうして繋がるんだよ」
「え……?」
今度はフレンが豆鉄砲を食らったような顔をする。
「だ……だって」
「恋人じゃなきゃセックス出来ねえってわけじゃないだろ? どこまでおこちゃまなんだお前は」
呆れたように肩をすくめるユーリを見つめるフレンの視線が、徐々に剣呑なものに変わっていく。
「じゃあ、君は愛もない女性を抱いたというのか?」
「そりゃ、男の性っつーか、あらがえない生理的欲求だしな」
さらりと流されて、フレンの瞳が憤怒を通り越し、今度は悲しみの色へと変わっていく。
ユーリの乾いた言葉に、胸の奥が棘を打ち込まれたように鈍く痛み出す。
フレンは無言のまま堅くシーツを握りした。
むき出しになっている白い肩は微かに震えている。
「おい……?」
その様子にさすがに不安になり、ユーリはフレンへと指を伸ばした。
だが、触れる前にあからさまに身体をよけられ、ユーリの指は肌に触れることなく宙を掴んだ。
「それじゃ、ぼくとも……。この関係も単なる生理的欲求で……」
「何言ってんだ、ばっか。極端から極端に飛びすぎだぞ、お前」
呆れたように深くため息をつくと、今度は逃げられないように、強引に身体ごとフレンを抱き寄せた。
「ほんと馬鹿だなあ、お前」
「人を馬鹿とか言うな!」
「馬鹿だけど、可愛いって言ってんだよ」
そう言いながら耳朶にくちづけ、金色の髪を指先で梳く。
「俺はさ、どっちかってーと女の方が好きなの。つーか女の身体の方が好きなんだよ」
びくりとフレンの肩が揺れる。
「でもさ、お前は特別なんだ。男とか女とかヌキにして、お前が一番好きだ。お前しか抱きたいと思わない」
「ユーリ……」
白い頬を真っ赤に染めながら、潤んだ瞳でフレンが見上げてくる。
その可愛らしさにユーリは大げさに肩をすくめ、ため息をついた。
「ったく、計算してるわけでもないのに、ほんとどうしてこうかな?」
同じ年の同じ男にこんな風に思うなんて、本当に終わってる。
終わってるが仕方がない。
「な……何が?」
「俺のツボをついてくるってこと」
「あ、ちょっと……」
再びベッドに押し倒され、首筋を強く吸われる。
与えられる快感に屈服しそうになるが、なし崩しにまた身体を開かされるわけにはいかない。
既に身体は疲れ切っている。
フレンはなんとか逃れようと身体をよじった。
「愛してるなら拒むなよ。これは愛するもの同士しか出来ない行為だろ?」
耳元で囁かれた甘い声に、抵抗する力が抜けていってしまう。
「ユーリ……」
「俺ももう、本当に愛しているヤツとしかしないからさ」
いちいち言うことがカンに触って腹が立つ。
腹が立つが、拒めない。
頑なに触れてくる唇を堅く閉ざすことで拒んでいたが、結局は執拗に求められ、唇の奥を許してしまうことになる。
本当に馬鹿だ、ぼくは……。
自嘲気味に笑いながらも、心の中は暖かいもので満たされていて、フレンは瞳を閉じると、覆い被さってくるユーリの背中にしがみついた。