ユーリ欠乏症

「それでね、フレンを呼んだのは他でもないの」
 柔らかな、それでいて何となく腹にいちもつありそうなうさんくさい笑顔を浮かべながら、アンジュが指先を組む。
「なんでしょう?」
「最近苦情が多くて困ってるのよ」
「苦情?」
 訝しげにフレンの眉が寄せられる。
「そ、アナタのお友達に関してね」
「お友達……?」
「やだわ、とぼけないで、ユーリのことよ。一緒に組むパーティメンバーから、いつも妙にイライラして態度が怖いって苦情が殺到してるのよ。かといって、依頼者から指名されているのに不参加にさせるってわけにもいかないし。私も困ってるの」
「はぁ……」
「ユーリの他の仲間達に聞いたら、それはフレンに言ったら一番いいんじゃないかって言われたから……ね?」
「ね?……と言いますと」
「やだわぁ、なんとか彼の機嫌をとってほしいってお願いしてるんじゃない。四六時中生理二日目みたいな態度されると、こちらも困るのよね、お仕事なんだし」
「せ……」
「あら、ごめんなさい、セクハラだったかしら?」
 邪気のない笑みで邪気ありまくりの台詞を吐かれ、フレンは思わず大きく肩を落とした。
「何も僕に言わなくても……。アンジュが直接ユーリに言ったらいいんじゃないか?」
「あらぁ、そんなこと出来ないわ。小心者ですものぉ」
 わざとらしく頬に手をあて、可愛らしい仕草で左右にかぶりをふりながらアンジュが答える。
「小心……」
「それに、ジュディスが言うのは、ユーリがあんな風に不機嫌なのは、フレンが原因じゃないかって言うの。心あたりないかな?」
「えっ……」
 予想しなかったつっこみに、フレンは思わず口ごもる。
「あら? あるのかしら?」
「いや……それは」
「まあそれはどうでもいいんだけどね」
 あっさりアンジュが引き下がる。
「原因がなんであれ、ユーリの機嫌を直して欲しい。これが私からの依頼。もちろん報酬はあるのよ。まる一日この船で一番いい部屋をフレンに貸してあげます。なんと鍵つき。そこでユーリとゆっくり話し合って、いつもの彼に戻して頂戴」
 柔らかく優しげな笑みを浮かべながらも、驚くほどの強引さで言い放ち、フレンの手の中に小さな鍵を押し込めた。



「はぁ……」
 大きなため息をついてフレンは肩を落とした。
 目の前にはベッドの上に横柄にふんぞりかえって足を組んでいるユーリがいる。
 一番いい部屋とやらに、二人っきりで話がしたいとユーリを引っ張り込み、鍵をかけたまではよかったが、アンジュの依頼の内容を思い出すと馬鹿馬鹿しいやら情けないやらでため息のひとつやふたつ出てしまうのは仕方がない。
「何ため息ついてんだよ。うっとーしーだろ」
 背後から容赦なく文句が飛んでくる。
 思わずかっとなってフレンは後ろを振り返り、親友に噛みついた。
「鬱陶しいのは君だ! 仕事で関係ない人に八つ当たりするなよ、子供じゃあるまいし」
「八つ当たりなんかしてねー」
 拗ねた子供のいい方でユーリが反論してくる。
「してなきゃこんな苦情寄せられるわけないだろ。アンジュにも迷惑かけて」
「へーへー」
 ふてくされたまま生返事をするユーリに、再びフレンの唇からため息が漏れる。
 しばらくの沈黙の後、フレンは意を決したようにベッド脇のテーブルへと歩み寄り、両肩を被っている鎧をはずして丁寧にその上に置いた。
「あ?」
 何か言いたげなユーリの視線を背中に感じながら、腕、そして足を覆っている鎧もはずしていく。
「お前……?」
 マントをはずし、青い騎士服を脱いでインナーだけになると、頬を少し強ばらせながらユーリの隣へと腰を下ろした。
「す……するんだろ?」
 フレンは真っ赤になりながら吐き捨てるように言うと、ぎゅっと瞳を閉じる。
「はあ?」
「しないのか?」
 酷く驚いたように、フレンが両目を見開き、ユーリの顔を覗き込む。
「お前、俺をなんだと思ってんだよ。四六時中盛ってるわけじゃねーぞ」
 呆れたように言いながら、ユーリは腕を組み、横目でフレンをねめつけた。
「でも……、不機嫌の理由はこの前僕が拒んだからだろ? それくらいしか理由は考えられない」
「まあそうだな。でもだから今からやります、はいそーですかってわけに行くか。どんだけだよ、俺は」
「じゃあどうすれば機嫌が直るっていうんだ。っていうか、ギルドの仕事はちゃんとしろよ!」
「仕事はしてんだろ? 全部ミッションはクリアしてるはずだぜ?」
「そういうんじゃなくて! ちゃんと仲間とも協力して……」
「協力してんじゃねーか」
「だから!」
 フレンは思わず痛むこめかみを指先で撫でた。まるで屁理屈ばかり達者な子供を宥めているようだ。
「じゃあさ」
 上から降ってくる声が妙に優しげに変わり、フレンはふと顔をあげる。
「そんなに言うんだったら、騎士様が俺をその気にさせてくれよ。仕事的な意味でも……」
 つと顔を寄せられる。
「性的な意味でも」
 思わず顔が真っ赤になるのをフレンは自覚した。両頬が熱を持って熱い。
 悪巧みがうまくいった子供のような笑みを浮かべ、それでいて若い獣独特の雌を引きつける強烈なフェロモンを放ちながらユーリが上目遣いに顔を覗き込んでくる。
「何をしろって言うんだ」
「その気に……させてみろよ、俺を。お前の身体……全部使ってさ」


「ん……」
 くぐもった声がフレンの唇から漏れる。
 さきほどまで萎えていたそれが今はもう熱くなり固く屹立している。
「もっとうまく舌を使えよ。俺がいつもやってるようにさ」
 優しげにフレンの金色の髪を撫でながらも、無慈悲に征服者は言う。
 やってるようにって……。
 そんなこと言われても、だいたいユーリに愛されているときは、頭が朦朧として何をされているのかほとんどわからない。ただ、生き物のようにはい回る舌の熱さだけが皮膚を通して伝わってくるだけだ。
「っ……」
 手の中のものが激しく脈付いたかと思うと、喉の奥まで放たれ、フレンは思わず咳き込んだ。
「ちゃんと受けとめろって。ほら、大丈夫か?」
「だ……いじょうぶじゃ……」
「ほら、こっち来い」
 タオルで口元をぬぐわれた後、優しく抱き留められて、フレンは一瞬身体の力を抜いた。
 だが再び身体を強ばらせ、ユーリの抱擁から逃れようと甲斐のない抵抗を始めた。
 ユーリの指先がフレンの下肢に伸びたからである。
 器用に下肢を露わにされ、双丘の間に指を差し入れられて、固く閉ざされた場所を左右に引っぱられた。
 いたずらな指がそこを焦らすように撫でてくる。
「自分でここに挿れてくれんだろ? 俺の上に乗って」
「な?」
「そうしてくれたら俺機嫌治るんだけどなぁ。あ、ならすのは自分でやれよ。ちゃんと俺に見えるようにな」
 ユーリはそう揶揄するように言うと、フレンの身体を解放する。
 羞恥と怒りで顔を真っ赤にしながらも、フレンは半ばヤケとばかりに乱暴にまとわりついている衣類を脱ぎ、床へとたたきつけた。
 そして、そのままユーリの身体にまたがる。
「お……おいっ」
 驚いたのはユーリの方だった。
 眉をしかめながらも、フレンは必死に腰を落として、ユーリのものを受け入れようとしている。
「いくらなんでもならさなきゃ無理だって」
「うるさい! 黙って寝てろ!」
「おい、フレン」
「あっ……つっ……」
 激痛に顔をしかめながらも、フレンは徐々に腰を下ろしていく。
 だが、慣さず、乾いたままのそこは侵入者を激しく拒み、一向に受け入れようとはしない。
「ばっか無理だって」
 呆れたように言うと、ユーリはフレンの身体を引き寄せた。
 なすがままにユーリの胸の中になだれ込むと、そのまま反転し、ベッドへと押し倒された。
「お前が怪我したら、今度は俺がアンジュに怒られんだろ」
「自分でしろって言ったじゃないか!」
「慣せとも言っただろ。もういいって。ちゃんと俺がしてやる」
 無意識にあふれ出ていた涙を吸われ、フレンは優しく触れてくるユーリの唇に少し身体の力を抜いた。
「よっと」
 体勢を変え、ユーリがのし掛かってくる。
 顎を捕らえられて、唇が触れてくる。何度もついばむように口づけながら、徐々に深く重なり合う。
「楽にしてろ」
 熱っぽい声が耳元を掠める。官能的な声を聞くだけで、フレンの身体はこれから与えられる快感への期待と、沸きあがる羞恥に微かに震えた。
 頬から首筋へと唇で吸われ、胸はいつのまにか掌で覆うように揉まれている。
 突起を潰すように圧迫されて、フレンは小さな痛みに喘いだ。
「ここ吸うのも久しぶりだな。吸われたかった?」
 意地悪く、ユーリが聞いてくる。
「んっ……」
 何度もそこへと触れようとしながらも、焦らして舌を引っ込めるユーリを見て、フレンは悔しげに唇を噛んだ。
「舐めて欲しい?」
「っ……」
「舐めて欲しいって言えよ」
 伸び上がってフレンの耳朶を噛むように囁いてくる。
「誰がっ……」
「言わねえの?」
 指先で突起を引っぱられ、擦られる。刺激に思わず声を上げそうになるが、フレンは唇を噛んでそれを耐えた。
「声出せって……」
「やっ……あ……」
 首筋を下から上へと舌先でなぞられて、ぞくぞくとする快感が背中をかけあがっていく。
「言えって」
「あ……っ」
「舐めて……って」
 思わず殴りつけたい衝動をフレンはかろうじて抑えた。
 言葉で嬲られ、攻められてこんな屈辱的な事はない。
 だが、機嫌をとれと依頼を受けている以上、そんなことは出来ない。
 そもそもなぜ自分がユーリの機嫌を取らなければならないのだ?こんな辱めを受けながら。
「フレン?」
 思わず喉の奥から嗚咽が漏れる。なんとか押さえようとするが、溢れる涙同様止めることが出来ない。子供のようにしゃくりあげると、あからさまにユーリが狼狽して顔を近づけてきた。
「ちょ……おまっ……。マジ泣きすんなよ。ったくしゃーねーな」
「な……にが仕方ないだっ! そもそも君がっ」
「ハイハイ」
 宥めるように返事をすると、ユーリが覆い被さってくる。
 思いの外優しく抱きしめられて、フレンは困惑しながらユーリの顔を見上げた。
 柔らかく唇が触れてくる。侵入してきた舌が、フレンのそれに絡みつく。
「んっ……」
 舌先を触れあわせ、生まれる快感で、意識が朦朧となる。
 甘えるような吐息が、無意識にフレンの唇から漏れた。
 ユーリの指先が再び突起を捕らえて、さっきとは打って変わった優しい刺激を与えてくる。
「ゆ……りぃ」
 躊躇いもなく熱い唇がフレンの胸元を吸い、舌先で転がすように刺激する。欲しくてたまらなかった快感が、あっけなく与えられてフレンは思わず己の指先を噛んだ。
 突起をきつく吸われたかと思うと、柔らかく甘噛みしてくる。痛みを伴う甘美な刺激。
 もっと侵略されたいと、どこか被虐的な想いが、フレンを支配していく。
 悪戯な舌先が、下腹部を数回往復し、へそのまわりを舐めると、一気に熱くなったものへと食らいついた。
「あ……んっ……」
 口腔に深く含み、唇で上下に擦ってくる。足の指先まで緊張するような鋭い刺激に、フレンは泣きながら声をあげた。
 ユーリはわざとはしたない音を出しながらそこを舐め、空いている指はその下の柔らかな部分を優しく揉んだ。
 突如襲って来た、チリという鋭い痛みに、一瞬フレンの瞳は見開かれ、背中が弓なりにしなった。
 ユーリの指が閉ざされた秘処へと触れてきたのだ。
「あー、お前ココ切れてんじゃねーか。無理すっから」
「な……に?」
「ま、ちょっと痛いかもしれねーけど勘弁な」
「え? ああっ」
 両方の指でそこを開かれ、熱い舌を差し入れてくる。舐められる度に、小さな、だが鋭い痛みがそこから沸き上がってくる。
 上下に忙しなく舌を動かしたかと想うと、ふくらんだ入り口を唇できつく吸ってくる。
「あ……や……いやっ……だ……ゆーりっ……痛い」
「痛いのは自業自得だろ? いーから、我慢してろ」
「んっ…んんっ……」
 濡れた音を立てながらそこを舌先で抉られて、フレンは小さく嗚咽を漏らした。舌が動く度に感じる鋭い痛みと、すべてをさらけだしている羞恥。そしてこれから与えられる気が遠くなる快感への期待、それらのすべてが混沌と絡み合い、意識せぬ涙となってあふれ出る。
「あっ……」
 予想しない刺激に、思わずフレンは悲鳴をあげ、のけぞった。
 ユーリの指がゆっくりと中へと挿入されたのである。細く、そして長いそれがゆっくりと内部に侵入し、敏感な内部をひっかくようにして引き出される。
「や……あっ……んっ」
 大きく開かれた足の間にユーリの端正な姿が見える。飢えた獣のような表情をし、熱心にそこを見つめながら指を出し入れしている。穿たれる度に内部をかき混ぜられ、容赦なく刺激が腹の奥に響く。フレンは髪を振り乱し、泣きながらシーツをきつく掴んだ。
「よっし、これでオッケー」
 征服者は満足そうに微笑むと、再び上半身を起こしていたフレンの身体をベッドへと押さえつけた。
 足首を捕らえられ、大きく開かれる。
「ゆ……」
 己のモノに手を添えながら、今まで嬲っていたそこへとユーリが押しつけてくるのをフレンは感じた。
 探るように先端を擦りつけたかと思うと、身体を前に倒し、一気に太い部分を呑込ませてくる。
「あっ……やぁあっ……」
 無理矢理広げられ、内部に入り込んでくる痛みに、フレンは喘いだ。
 小刻みに腰を動かしながら、穿つ度に内部へと深く入り込んでくる。躊躇することなく快感の場所を的確に擦られて、フレンは耐え切れずに声をあげた。
「気持ちいいか?」
「よ……くなっ」
「素直じゃねえな」
 苦笑しながらも、ユーリは深く腰を引き寄せてきて、尚更奥まで占領された。
 ふと動きを止められ、頬に優しくくちづけられる。
「な、フレン、目開けろよ」
 掠れた声で囁かれて、フレンはゆっくりとまぶたを持ち上げる。
 乱れた長い髪を纏わせながら、ユーリが覗き込んでくる。
 精悍で美しい顔立ちが間近に迫る。
 頬を優しく撫でると、ユーリは鮮やかに微笑んだ。
「綺麗だな……。青い目が潤んですげー綺麗」
 優しく涙をぬぐいながら、ユーリが囁く。
 違う。綺麗なのはユーリの方だ。美しくしなやかで、飢えた獣のごとく強い輝きを放つ漆黒の瞳。
 傲慢でわがままで、それでも憎めなくて。
 フレンは両腕をあげるとユーリの身体を抱き込んだ。
 飢えているのは自分も一緒だった。
「どした?」
「ゆーり……」
 甘い声で強請れば、すぐに力強い腕が抱きしめてくる。
「よっしゃ、捕まってろよ」
 そういいざま深く抉られて、フレンは悲鳴をあげた。突かれる度に甘い嬌声があがる。
 鈍い痛みとともに、震えるような快感を惜しげもなく与えられて、足の指の先まできつく反り返る。
 飢えてるのはユーリだけじゃない。悔しいが認めないわけにはいかなかった。
 フレンは思いきりユーリを抱きしめると、きつく締め上げ、内部へと解放を誘った。同時に自分の放ったモノが白い下腹部を汚す。
 ユーリのモノを最後の一滴まで搾り取ると、フレンは満足そうに微笑み、シーツの上に仰向けに倒れ込んだ。
 優しい口づけを頬に唇に何度も受けながら、情事の後の朦朧とした頭でフレンは考えた。
 これで機嫌は直ったのかな?
 探るように上目遣いにユーリを見つめると、いたずらっぽい笑みを向けてくる。
「まあ、足りない分は補充したって感じですか? まだまだ抱きたりねーけど」
 そう言いながら、指先をフレンの腕になぞるように滑らせる。思わずびくりと身体を震わせると、にやつきながら顔を寄せてくる。
「なんだぁ? こんなんでも感じちゃうわけ?」
「仕方ないだろっ……、これは君が」
「俺が?」
 意地悪く口の端をあげながら、尚更締まりの無い顔になって、ユーリが問い返してくる。
「もしかして身体が思い出してきた?」
「うっさい!」
 羞恥に顔を赤くしながら枕を投げつけると、ユーリは器用にそれを避け、飛び込むように抱きついて来た。
「ユーリ!」
「じゃ、今度は俺がフレンの機嫌をとるためにがんばっちまうかな?」
「い……いらないから!」
「遠慮すんなって」
 深く唇を重ねられ、再び身体の線をなぞられると、抵抗する気力もなくなっていく。
 一度思い出してしまった快楽をそう簡単に拒めない。
 甘美な諦念がフレンの心の中に広がっていく。
半ば自棄になって足を開き、ユーリを招き入れる。
嬉々として侵入してくる征服者をフレンは腹いせとばかりにきつく締め上げて身の内に拘束した。